訪問日:1999年10月13日(土)
能登川町総合文化情報センターの図書館と博物館の館長をされている才津原さんは、以前、福岡県苅田町の図書館に務めておられました。その頃知遇を得て、いろいろと教えを請うていたのですが、能登川に請われて移られてから、久しくお会いする機会がありませんでした。
ようやく滋賀県を訪れることが可能となり、事前に連絡を入れて図書館を見せていただくことにしました。苅田の図書館での経験がどのように活かされているのか、非常に楽しみにして出かけました。
当日は、生憎の曇天に雨もちらつく肌寒い朝でしたが、京都からJRで能登川へ行き、駅からぶらぶらと歩いて行ってみました。ちょっと距離がありましたが、事前に場所を同センターのWebサイトで調べておいたので、迷うことはありませんでした。
「図書館関連論考」に滋賀県能登川町立図書館・博物館長の才津原さんが国土交通省の広報誌「国土交通」2003年1月号(第56巻第1号)に書かれた「本物の図書館・博物館づくりを目指して」を転載しました。併せてご覧いただけると幸いです。(2003.2.2 Dice)
外観
看板の緑色の部分が図書館と博物館。水色の部分が埋蔵文化財センターで、合わせて「総合文化情報センター」
南側(?)の駐車場方向からのアプローチ。図書館棟を右手に見ながら、回廊(コリドール)っぽい屋根付き通路を取って入り口へ。
西側(?)の駐車場方向からのアプローチ。右側の2つの建物が駐輪場、左側の建物が博物館棟。左手前に埋蔵文化財センターがある。
写真ではちょっとわかりづらいが、南側(?)駐車場に面した窓の外、広場から流れる水路に水車が作られている。これも能登川の民俗資料のひとつ。
ちょっと遠景に引いた写真。館外にこういう感じの広場があって、屋外コンサートなどの野外活動もできる。広場の一角に「ケナフ」が植えられていたり、ちょっとした畑もあったりした。博物館との複合施設らしい運営がここにもうかがえる。
駐車場側からアプローチしてきたところにある入り口。入り口は、道路側にもう一つある。
この写真の右側に返却用のブックポストがある。
到着したのが10時の開館前で、まだ入り口が閉まっていたので、この前でしばらく待つ。ご覧のとおり、玄関付近には開館時間の案内などが無く、私と同じく早く到着した親子連れが、ちょっととまどった顔をしていた。
内部
午前10時の開館と同時に図書館の中へ。しばらく館内を眺め回して雰囲気を味わってから、カウンターで来訪の旨を告げると、才津原館長は自ら児童コーナーで絵本の整理をしておられました。
お忙しい中、しばらく館内を案内していただき、その後自由に雰囲気を楽しみました。ひとことで言うと、暖かく落ち着ける図書館でした。訪問者としては、使ってみたい気にさせる図書館ですね。
図書館ばかりに気を取られて写真にはありませんが、ここの特色のひとつは、博物館と埋蔵文化センターの複合施設であること。図書館の館長さんは、博物館の館長も兼ねておられます。
ここの博物館は、常設展示を持ちません。毎月、テーマ別の展示が行われています。訪問した時は、トンボの展示が行われており、町内の方の採取したトンボの標本(かなりの数)などが展示されていました。
常設展示が無いことで、職員は定点に安住することができません。企画を追い求めつつ、郷土を見直す視点が求められます。実際に働く方は大変だと思いますが、こういう活動を通して、町民誰でもが展示に係わることのできる可能性を秘めていることに気づかせてくれました。私にとって、刺激のある、得るところの多い訪問でした。
入り口を入ってすぐの所に子どもの本のコーナーがある。子どもの目線で写真を撮るとこんな感じで絵本の世界が広がっている。
大人の目線で写真を撮るとこんな感じ。面展示が多用されており、結構壮観。並べる職員の方は結構大変かも知れないが、こんな書架の維持管理が職員の力量を育てるのかもしれないと感じた。
紙芝居のための書架。書名(作品名)の50音順で整理されている。下段が空いており、まだまだ余裕がありそう。紙芝居は、それぞれビニール製の袋に入っている。
子どもの本のコーナーの一角。木製のキリンとシカ?。ここに限らず、全体が木の温もりを感じさせてくれる家具構成になっている。
お話や読み聞かせのためのコーナー。階段状の大きな観客席と、紙芝居用の机と木枠。ここのように、変にカーペット張りなんかにしない方が良い感じ。
実際に、職員の方が読み聞かせをされるところを拝見したが、自然でとても良い雰囲気。ボランティアに頼るのではなく、図書館員自身が読み聞かせのできる図書館は、サービスの質もちょっと違う。
木製のカウンター。分割式で、職員がすぐに館内に出て行けるようになっている。
雑誌架。4段のうち3段を最新号の面展示に、最下段をバックナンバーのストックに使っている。雑誌の数としては、多い方だと思うが、滋賀ではこれが常識なのかもしれない。
雑誌架に並ぶ雑誌の一部に、こんな表示が。「週間歌謡曲は紛失が相次いでいるため、最新号をご覧になりたい方はカウンターまでどうぞ。」とある。
いずこも同じ悩みを抱えていて苦肉の策だけど、なんだか哀しい。利用者教育しか解決策はないのだろうか。
雑誌架の近くにあるソファー。両サイドに照明用のスタンド。
美術書など大型書の書架近くにあるテーブルと椅子。
閲覧室の書架の配列の模様。書架は木製の5段で背板も無く、館内の見通しは良い。通路もゆとりを持って取られており、腰掛けてブラウズするための椅子も写真のように配置されている。
書架をざっと見て回ったが、丁寧な選書と日々の書架の手入れがきちんと行われていることがうかがわれる。
排架はNDCに準拠しているが、カウンター近くの書架には、NDCを無視して時事のテーマによって排架した書架もあった。
分類を示す書架のサイン。書架の材質に合わせて、一体的にデザインされている。
書架上部には丸棒が渡してあり、天板には2本の溝が掘られ、写真のように本を立てかけて面展示できるように工夫されている。
ただし、この方法だと、小口の厚い資料の場合は、表紙が下がってきて資料自体が歪んでしまうおそれがあるため、長期の展示には耐えない。できれば地小口を面で支える方が、資料のためには優しい。
本の背が、書架の前面にきちんと揃っているのがわかるだろうか。毎朝こういうところも注意しながら職員が書架を点検し、書架を活きた物に変えて行くと同時に、職員の資料に対する感覚も上げて行く。ボランティアに書架整理をまかせっきりだと、書架の本の動きが図書館全体のサービスに繋がって行かない。
能登川の特産品のひとつに麻製品があり、麻布を使った工芸品が館内を飾っている。これは、ブラウジングコーナーの一角の様子。長椅子の前に外部からの視線を和らげる衝立のように並べられている。
天井には、オフホワイトの麻の長布が優美な曲線を作っている。構造材がむき出しで一見無骨になりがちな上部空間の表情を見事に和らげている。
この写真ではちょっとわかりにくいが、柱にも麻製のタペストリーが飾られている。
地場産品といえども結構な値段なので、意外と地元では使われていない。そのため、図書館で資料のひとつとしてタペストリーを貸し出している。写真の左手に架かっているのがそれ。
写真右手の一角はAV資料が並んでおり、CDやLD、ビデオなども貸し出している。